きれいごと抜きで言ったら、もちろん生活が大事。それっていうのは会社が一生懸命頑張ること。会社が頑張ってくれているのを感謝ができる美容師さんは続けることができるんですよ。

－若い美容師に「センス」を磨くためにアドバイスするとしたら？

一言で終わります。やっている事は全部無駄じゃないので、続けることだけなんです。例えば、休み、お給料、環境、いろんな要素があって美容師って成り立つんですが、きれいごと抜きで言ったら、もちろん生活が大事。それっていうのは会社が一生懸命頑張ること。会社が頑張ってくれているのを感謝ができる美容師さんは続けることができるんですよ。人のせいにしたり、自分の能力のふがいなさを他人に置き換えて話したり、話をすり替えたり、そういう人は続けられない。多分どんな仕事でもそうだと思います。

踏ん張る時って絶対あるので。それが10代なのか、20代なのか、30代なのか、40代なのか。生きているうちはどこかの年代で絶対ある。それをいかに早くやれるかということに気づければ、「センス」は勝手についてきます。いつでもいいんですよ。僕はそう思っています。

－今のスタイリストは昔の人たちと比べて違うことはありますか？

昔は良いところと悪いところがあって。（昔の）良かった点は、怒られることでやることが明確化する。悪かった点は、人間性が悪くなる。怒られ方にも千差万別あると思うんですけど、ストレス発散で怒っている方も中にはいましたよね。それが自分が同じ立場になればわかる。「いや、別にあんなことしなくても。それって意味ないよね」みたいな。

今の美容師で凄く良いのは、これだけネット社会になっているので知識がものすごく豊富です。気づく力が強ければ強いほど一瞬で出来てしまうことが多い。それはすごく感じています。それがさっきの「センス」につながるんですけど。いろんな出来事を経験した人間にはかなわない。若くても時間の使い方が上手ければ、こんなこともできる、あんなこともできるって。「これ教えてないけどなぜできるの？」っていう発見がたくさんあるんですよ。

自分の人生を決めるのは自分自身。お店や先輩に魅力をどう感じてもらえるか、価値を見出してもらうためにどうすればいいか、そういうことを考えていくのは昔も今も変わっていない。むしろ今の方が人を伸ばすのには最適な環境が整っている。ただ、なにくそ根性がなくなってしまうといけない。それをどう融合させるかっていうのが僕の今の一番の課題なんですよ。

－美容師として働き始めて辞めていく人も多いです。何が原因だと思いますか？

僕もそれはすごく模索中です。一番考えられる原因としては、将来、自分のビジョンが持てないこと。それを導き出せる企業を作ることが最優先。一番わかりやすいのが、もちろん順序立ててその通りに人生行けばいいんですけど、なかなかそううまくいかないじゃないですか。ただ、今はこれだけ業種がたくさんある中で美容師を選ぶ場合、どうしても一般企業と比べると組織力でいうと劣ってしまう。その道筋が立てられるような状態が一番いいのかな。そうすれば辞めないのかなって思います。大体このぐらいになったら給料がこのくらいになると。昔の雇用制度ではないですけど、そんな感じが今求められているのかなと思います。やりがいというのは、さっきの「気づき」の話になる。そこはお店や先輩が立ち入る部分ではない。その人の生き方ですよね。

変な話、お父さんお母さんみんな生きている。最悪住むところも食べるものもなんとかあるじゃないですか。人生100年時代って言われますけど、大体生きても80弱。80ちょい過ぎたらすごいってなるわけで。そのうち働くのは20歳から60歳までの40年ほど。40年ってあっという間だと思う。そう考えると将来に対する不安を取り除きながら今何をしたほうがいいかっていう指標を示した方が離れづらいのかなと思います。

あとは、和気あいあいやるのがいいのか、それともほどよく厳しくしてお客様から賞賛を得られて満足度を上げたほうがいいのか。そこは試行錯誤ですね。一人入っただけでお店のパズルが全部変わるので。それをうまくまとめようとするのにはやっぱりトップダウンしかない。でもトップダウンやりすぎると大変なことになる。ヒアリングするにはボトムアップしたほうが絶対いいと思います。それにはやっぱり上と下のコミュニケーション。縦軸と横軸を考えて付き合っていくしかない。だから僕がマニュアルを作らない理由はそこにあるんです。その人を見ながらなので。